お薦めの本(5)『80代になると たいていはボケるか死ぬ。70代は神様から与えられた特別な時間』

『80代になると たいていはボケるか死ぬ。70代は神様から与えられた特別な時間』 林 真理子 幻冬舎新書 2026年

 72歳になった作家のエッセイである。これから70代をどう生きるかを書いている。80代になったら、きっと数字を書き換えて「80代は特別な時間」ということになるのではないかと想像する。2022年に日本大学の理事長に就任し、2026年6月に退任されたので、理事長として勤務している2025年にオーディオブックAudibleで配信されたものがもとになっている。70歳を目前にした世代は、きっと買って読んでいると思う。

 急に体力や気力が落ちてくるときに気をつけることや、手放したり諦めたりすること、反対にやるべきことなどがわかりやすく書かれている。自分で気持ちよく過ごすために、そして、周りの人からも気持ちよく受け入れられるために、参考にしたいことがたくさんあった。この本を読むと、人生を愉しむための時間は少ないことをひしひしと感じる。でも、70代では「貯金を切り崩すにはまだ早い」と書かれている。仕事はできる範囲のものを続けながら、できる範囲で毎日にメリハリをつける工夫をして、今まで大切にしてきた物やとっておいた物は、普段の生活の中でどんどん着たり使ったりして楽しむこと。「働くつらさはまだ捨ててはいけない」「老いにさからうのではない、小さな努力の成果を楽しむ」とある。

 自分で自分のご機嫌をとりながら、時間を大切に過ごしたい。これまで、忙しいとか、時間がないとか言って、大雑把にやってきた家事や雑用にも、丁寧にゆっくりと向き合おう。しまっておいた特別の食器を出してきて、普段に使う。特別な行事というのはもうあまりないのだから、真珠のネックレスは思い切って普段使いにする。よそ行きの服を普段の生活の中で着て、素敵だと思って買ったけれど似合うかどうか自信のなかった帽子も人目を気にせずに被る。人目を気にする必要はない。どうせ人は自分のことで精一杯。他人のことは覚えていないのだから。

 カラスの行水と言われたお風呂、早食いと言われる食事、速足で気ぜわしい動作などは少しゆっくり時間をかけてみる。すると、何か大切なものが見えてくるような気がしてきた。70代を前に、「神様から与えられた特別な時間」の「1分1秒を味わい尽くす」というシンプルな言葉が、心に浸み込む年齢になったという自覚を促す本である。

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