『割に合わないことをやりなさい』 児玉 歩 株式会社KODANSHA 2025年
表紙には『タイパ、コスパ時代の「次の価値」を見つける思考法』と書かれ、『AI時代にこのまま終わりたくない人のための生存戦略』とも記されている。これまで効率最優先を唱えて成功をおさめ、数多くの人々のビジネスの立ち上げをサポートしてきた筆者が、現在の社会の流れに危機感を感じて世に出した本である。
現在、わたしたちは社会の大きな流れの渦中にある。極端に短い情報しか読まず、短期的で瞬時に流れて消える情報に左右される。自分の判断はその他大勢の評価に大きく影響され、選ばされた解や返答を即時に返すことが求められる。さらに、生成AIが急激に世に広まり、今まで人間が時間をかけてやっていたことを瞬時に目の前に出してくる時代。筆者は、そんな時代には「手間」「人間らしさ」「真正」「プロセス」「割に合わない」「寄り道」「無駄」、そして、「感動資本」が新しい価値となるという。
なぜ、割の合わない、無駄と思うような、時間をかけた、寄り道をすることがよいのか。そして、なぜ「寄り道」が未来への「投資」になるのか。筆者の長年の経験と論理的な説明に基づいた理由やヒント、身につけるべき力などが具体的に示されている。
生成AIはスピーディーに結果を出してくるし、その性能はさらに加速するが、経験知や実践知はない。それは人間が有する。人がより長く生き・働く時代となった今、変化する時代にどうしてよいのか悩んだり、行き詰まりを感じたりすることも多い。しかし、何もかもタイパ、コスパ、効率性でとらえる社会にあって、仕事だけでなく、家庭や家族生活、自分の人生の意味についても、同じ尺度でとらえ続けてよいのか。
『「スケジュールをこなす」ことと、「人生を味わう」ことは違う』という言葉にはっとさせられる。そして、「感動資本」や「非効率が生む味わいのある人生」という言葉は、これからの時代をどう生きるのかを考える参考になる。失敗は、様々な挑戦の体験から「データを得ること」であり、失敗の積み重ねの中であれこれ工夫してやり続ける折れない心(レジリエンスやセレンディピティ)が伸びるから、成功につながる。
他の人と同じ安全地帯で、みんなと同じ画一的な経験をするにとどまったり、やりなれた心地良い環境(ゾーン)にとどまっていたりするだけでは、脳の成長する力(可塑性、経験や環境などによって神経回路の構造を柔軟に組み替えて新しい学習や記憶等に対応する力)が弱まってしまう。
これからを考えるための、たくさんの視点を得ることができる本。


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